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福岡発、羽田行き [Cumin Seeds]

チェックアウトをしてエントランスを出ると、福岡の街は雨で濡れていた。

昨夜みんなではしゃいだ時間が、幻のようだ。やさしくて頼りになる仲間に恵まれて、ほんとうに幸せだとしみじみ思う。
そして、ひとりぼっちで空港に向かううちに、漠然とした寂しさに襲われる。もうしばらく強い女でいなければいけないのかな…。

飛行機の中で本のページをめくりながら、どうしてこんな気分の日に、この本を読み始めてしまったのかと、偶然のめぐり合わせに驚く。何気なくバッグに入れてきた本は、江國香織の「号泣する準備はできていた」だった。

飲み物を案内するアナウンスを聞いて、思い浮かんだのは温かいスープワゴンがゆるゆると近づいてくるのを待ちながら、毛布に包まって本を読み続ける。
「お飲み物は、何になさいますか?」
キャビンアテンダントのくっきりとした笑顔を見て、ふいに気が変わった。
アップルマンゴージュースをください」
そっと手渡された、鮮やかな色のトロトロとした液体を口に運ぶと、濃い甘みがじんわりとしみてくる。スープではなくジュースを選んだのは、マンゴーの色と甘さを、身体と気持ちが求めていたからなのかもしれない。

着陸態勢に入ったころ、目の縁にじんわりと涙が浮かんできた。どうしたものかと、顔を上げて、天井を眺める。
坂本九が頭の中で「上を向いて歩こう」と歌い始めた。歌声は途中から、忌野清志郎に変わる。坂本九と清志郎がデュエットを始めたころ、ゆっくりと顔をもとに戻してみる。
ポロポロポロ。
上を向いて溜まってしまった涙が、一気にこぼれてきた。
「逆効果じゃない」と心の中でつぶやきながら、隣が空席だったことに感謝する。

東京に戻ってから、誰かと話したくて、母に電話をした。
彼女は、ひととおり聞き終えたあと、ぽつりと言った。
「今日、雨が降ってるんじゃない?」
まるで、私の気持ちが天気に影響されやすいことを、誰よりも知っているかのように。

薄く曇った東京の空を眺めながら、私は答える。
「ううん、こっちは降ってないよ。福岡は、降っていたけど…」


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